BGR(Bandgap Reference)は電源電圧、温度、プロセスに依存しない絶対的な基準電圧(あるいは電流)を生成する回路です。
その基準電圧は電源回路やコンパレータのリファレンスに使われ、基準電流はアンプやバッファなどの様々なアナログ回路に配られます。
そのため、BGRは多数の回路に影響を与えうる非常に重要な回路となってきます。
BGRは非常に一般的な回路ですが、その原理は若干とっつきにくいです。
ここでは細かな計算はせず定性的に、なぜBGRが電源電圧、温度、プロセスに依存しない基準を作ることができるかについて説明したいと思います。
回路の具体的な構成について知りたいという方はBGR回路の構成まとめも参照していただければと思います。
なお、その他のバイアス手法としては抵抗分圧やconstant-gmなどがあり、用途によってどれを使用するかの検討が必要です。
これらについてはバイアス回路の構成まとめに記載しています。
電源電圧に依存しない基準電圧
電源電圧は電源回路の出来によって電圧値が理想からずれてしまったり、周りの回路からのノイズで揺らいだりしてしまいます。
そのため、基準電圧が電源電圧に依存すると、そこから作られたバイアス電圧も電源電圧に依存することになり、結果的に出力に電源ノイズが乗ってしまうなどの問題があります。
BGRを用いると電源電圧依存がない基準電圧を作ることができます。
どのように電源電圧依存性を除去しているのでしょうか?
“BGR CMOS”で検索すると下記のような構成のBGRがヒットします。
このVoutは電源電圧・温度・プロセスに依存せず一定となります。
電流を決めているのが左と中央のブランチで、電流を電圧変換しているのが右のブランチです。
電源電圧に依存しない電流を作ることが左・中央ブランチの役割です。
ここで、バイポーラ(BJT)と抵抗だけを抜き出してきた下図の回路のI-Vカーブを見てみます。
V1が低い時、I2はBJTの並列数を8としているので、I1より大きい電流が流れます。しかし、V1が高くなるにつれ、直列抵抗が効いてきて電流の増加を妨げます。その結果、ある時点でI1とI2が逆転します。
もし、これら二つのブランチでV1を共有しつつ I1 = I2 という条件を課すことができれば、I-Vカーブの交点で電流を決めることができます( I1 = I2 = I0 )。これがBGRの第1のコンセプトです。
交点となる電流 I0 はBJTと抵抗の特性によってのみ決まり、電源電圧には依存しません。また、後述するようにBJTや抵抗への依存性は電流から電圧に変換される際にキャンセルされ無くなります。
V1 を等しく保ちつつ I2 = I1 という条件を課す、という役割を果たすのがBGR上側のセルフバイアスされたカレントミラーです。
カレントミラーなので当然 I1 = I2 となります。そのため、チャネル長変調効果などの二次効果を除けば Vgs1 = Vgs2 が成り立ち、V1とV2を等しく保つという目的も達成されています。これによりめでたくI-Vカーブの交点で電流値を決めることができるわけですね。
以上の話から分かるように、BGRの精度を高めるためには二次効果の影響をできる限り抑える必要があります。カレントミラーをカスコードにしたり、あるいはアンプでフィードバックしたりすることでV1とV2の差をより小さくすることができます。
具体的な回路構成は別記事で紹介したいと思います。
さて、ここまでI-Vカーブの交点となるI0で電流が決まると述べてきましたが、実は交点はもう一つあります。
それは I1 = I2 = ゼロ となる点です。これを第二安定点といい、一度この第二安定点で回路が動作してしまうとそこから自発的に抜け出すことはありません。つまり、BGRが全く電流を流さず起動しない可能性があるということです。
これを防ぐために、実際の実装では必ずスタートアップ回路を用意します。この辺りの話は後述しています。
ひとまず、ここまでお疲れ様でした。
残るは温度依存性とプロセス依存性、そしてスタートアップ回路についてです。
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