基本的なバイアス回路であるBGRですが、その回路構成は代表的なものが幾つかあります。
ここでは、それぞれの特徴や用途をまとめておきたいと思います。
なお、どの回路構成でも基本的なコンセプトは一緒です。
これに関してはBGR回路の原理に記載しています。
ここでは、二つのBJTブランチに流れる電流をコピーする回路と、最終出力のBGR電圧を生成する回路と分けてまとめます。
ブランチ電流生成回路の構成
BGRは、ダイオード接続されたBJTがぶら下がる二つのブランチに流れる電流と、上側の電圧を一致させることで電源電圧依存がないバイアス電流を生成します($I_1=I_2$ かつ $V_1=V_2$)。これを実現するための回路構成として以下の三つをよく見かけます。
セルフバイアスカレントミラー
PMOSカレントミラーで電流をコピーして$I_1 = I_2$とし、NMOSカレントミラーで$V_1 = V_2$としているような構成です。
この構成は実装は楽なのですが、各MOSのチャネル長変調効果によって電流や電圧のずれが大きくなりやすい傾向があります。その結果、BGR出力電圧$V_{out}$の温度特性が悪化したり、ばらつきが大きくなったりしてしまいます。
カレントミラーをカスコード構成にすることでチャネル長変調効果によるズレを低減させ、温度特性などの改善が期待できます。ただし動作点の確保は難しくなります。
PMOS + フィードバック
アンプを用いてV1とV2の差分をPMOS電流源のゲートに負帰還する構成です。
基本的にセルフバイアスカレントミラーよりもV1とV2の電圧を合わせやすく、温度特性やばらつきが良いです。
アンプ自体のオフセットがV1とV2のミスマッチに繋がるので、アンプのオフセットを十分小さく抑える必要はあります。また、負帰還するので安定性が問題ないかの確認も必要です。
抵抗 + フィードバック
PMOS電流源の代わりに抵抗に電圧をかけることで電流を生成する構成です。ネットで見かけたので書いていますが、CMOSプロセスではこの構成は使わないように思います。
これらの抵抗は二つのブランチに等しい電流を流す役割と、温度依存性をキャンセルする役割の両方を兼ねています。
この構成の一番の問題点は、バイアス電流を他回路に分配できないことです。PMOSであればゲート電圧を共有させるだけで幾つでも電流のコピーが生成でき、簡単に分配できます。そのため、CMOSプロセスでは抵抗ではなくPMOSを使えば十分だと思います。
BGR電圧生成回路の構成
以下の回路図はセルフバイアスカレントミラーを使用したケースとして描いていますが、PMOS+フィードバックで置き換え可能です。
また、ダイオード接続したNPN型トランジスタの代わりにPNP型トランジスタをダイオード接続しても大丈夫です。
その1(PTAT)
M1, M2, R1で絶対温度に正に比例する(PTAT: Proportional To Absolute Temperature)電流を作り、これを$R_2$に流すことで温度に正に比例する電圧$V_{R2}$を作ります。M3の$V_{BE}$は温度に負に比例するので、$V_{R2}$と打ち消し合い、温度依存のない$V_{out}\sim1.2V$が得られます。
この構成のBGRは、
- PTAT電流
- PVT(プロセス、電圧、温度)依存のない1.2V電圧
の供給が可能です。
低コストでPTAT電流が欲しいケースを除いて、V-to-Iと組み合わせて(構成その2)使うことが多いです。
その2(V-to-I)
その1の構成にVoltage to Current Converter (V-to-I, VtoI)を付け加えた構成です。
PVT依存のない1.2V電圧をリファレンスとしてフィードバックしつつ、$R_3$と$R_4$で分圧することで、同じくPVT依存のない任意の電圧を作ることができます。
また、このときの電流はオームの法則より$I_1=1.2/(R_3+R_4)$となるため、抵抗の製造ばらつきのみに依存することになります。
まとめると、
- PTAT電流
- PVT依存のない任意の電圧
- 抵抗の製造ばらつきのみに依存した電流
の供給が可能です。
その3(CTAT)
PTAT電流(温度とともに増加)とCTAT電流(温度とともに減少)を並列に足しあわせることで、温度依存のない電流を作る構成です。
PTATはProportional to Absolute Temperature、CTATはComplementary to Absolute Temperatureの略です。
$V_1=V_{BE}$は温度に対して負の係数を持ちます。$V_2=V_1$なので$V_2$も温度とともに減少することになり、この電圧を抵抗に印加することでCTAT電流が作られます。
$R_1$と$R_2$の比を調整することで温度依存のない$I_1$を作ることができます。
$I_1$は抵抗の製造ばらつきに依存しますが、$R_4$や$R_5$のばらつきとキャンセルするので$V_{out}$は一定となります。
- PVT依存のない任意の電圧
- 抵抗の製造ばらつきのみに依存した電流
PTAT電流の供給ができない代わりに、V-to-I不要で一定電圧・電流を供給できるメリットがあります。
コメント