小信号解析と大信号解析はアナログCMOS回路設計の基本です。
大雑把に言うと、
- 大信号解析・・・非線形を考慮した大域的な解析。動作点の計算。
- 小信号解析・・・大信号解析で求められた動作点近傍で線形近似した局所的解析。
です。
以下で詳しく説明していきます。
線形とは$y=ax$のように入力に対して出力が比例する関係を言います。重ね合わせの理や古典制御理論が適用できるなど線形近似には多くの利点があります。
例として、MOSFETのソース-ドレイン間の電圧として$V_{DS}=V_{DS0}$が与えられているときにドレイン電流$I_{D0}$を求めてみます。
MOSFETが線形領域で動作しているとき、$I_{D}$は以下の式で与えられます。
$$I_{D}=\beta(V_{GS}-V_{TH})V_{DS}-\frac{1}{2}V_{DS}^2\tag{1}$$
この非線形の式に$V_{DS}=V_{DS0}$を代入して$I_D0$を導出するのが大信号解析(下図左)です。
このときの$V_{DS0}や$$I_{D0}$(つまり素子が動作している電圧・電流)をMOSFETの動作点(あるいはバイアス点、DC点)と言います。
次に、$V_{DS}$が微少量$dV_{DS}$だけ変化したときのドレイン電流の変化$dI_{D}$を調べてみます。
上式(1)に$V_{DS}=V_{DS0}+dV_{DS}$を代入しても当然求まりますが、もっと簡単に求めることもできます。
大信号解析で求めた動作点のすぐ近傍では$I_{D}$は$V_{DS}$に対して線形となるので、$$dI_{D}=\frac{\partial I_{D}}{\partial V_{DS}}dV_{DS}$$
と求めることができます。
このように動作点からの微小変化として計算するのが小信号解析(上図右)です。
逆に、線形から外れるような大きな$V_{DS}$の変動がある場合には小信号解析では不十分で大信号解析を行う必要があります。
シミュレーションにおいては、DC解析や過渡解析(Transient解析)が大信号解析に当たります。
一方で、AC解析は小信号解析です。
過渡解析では時々刻々と非線形を含む数式を解いて各時刻での正確な動作点が計算されます。電圧が0Vから電源電圧まで振れるデジタル信号のシミュレーションや、歪みの計算には過渡解析が必要です。
AC解析では、まず最初にDC解析によって動作点が計算され、その動作点における小信号解析が行われます。非線形性は考慮されないのでsine波入力の場合、同じ周波数で振幅と位相のみが異なるsine波が出力されます。そのため周波数特性(利得、安定性)の検証に用いられます。
次回は小信号等価回路についてです。
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